科研費繰り越し

科研費の翌年度への繰り越しの自由化が検討されているというニュース。
大学関係者にとっては朗報。「遅きに失した」感があるかもしれませんがw
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100829-OYT1T00097.htm


大学で研究する場合、どっかから予算をもらわなければ立ち行かないわけですが、一番の頼みの綱が文部科学省の「科学研究費補助金科研費)」です。
補助金とかを申請しなくても、「運営交付金」というお金はもらえるんですが、微々たるものなので、理系で実験などをする場合、他の財源が不可欠なのです。)
ただこの科研費にはいろいろと使い方に縛りがあって、その最たるものが「単年度予算」というシステム。
要するに、複数年度にわたる申請をした場合でも(「平成23年から25年にかけてこういう研究をするので、1000万円下さい〜」みたいな)、年度ごとに使う予算の額を決める必要があり(例えば、「H23年:500万、H24年:300万、H25年:200万」とか)、各年度その枠内でしか予算が使えない、という不合理さ。
文部科学省としてはその方が予算の策定がしやすいとか、そういうメリットがあるのかもしれませんが、大学関係者にとっては理不尽極まりない制度だったのです。


どういうことかと言いますと…
まず基本的に申請が通るかどうかは、主として申請書に書いた研究計画などが妥当かということと、要求する予算の総額が適当かということで決まります。
ゆえに「申請が通った」ということは、「申請者の研究に対して一定の予算(上の例なら1000万円)を投じる価値があると国が判断した」ということなのです。
「だったらその1000万円は好きな時期に使わせてくれよ!」と思う訳ですが、「単年度予算」のせいでそれができない。
例えば上記の例のように、3年にわたる研究計画で申請し、初年度に500万円使うと書いた場合、もし研究の結果、高額な機器を買う必要がなくなり、初年度に300万円しか使わなかったとしても、残りの200万円を翌年度に繰り越すことは原則的にできません。
最初の申請書に書いたとおり、次の年度は300万、その次の年度は200万しか使えないのです。
実質、使い切れなかった予算は没収されたようなものですね。


こういうシステムになっているので、科研費をもらった研究者は「どうせ余っても翌年度に繰り越せないんだから、今年中に使いきっちゃえ!」とそれほど必要でもない機器を買って、国民の血税を無駄遣いしますw
これは特殊な例ではなく、どこの研究室でもやっていることです。
しかも買った機器が有効利用されればまだいいのですが、その場の思いつきで買った機器が有効利用されることはほとんどないので(新しく買った機器を使いこなすのも結構大変ですしね)、高い確率で研究室の「超高級インテリア」と化しますw
個人的な見解ですが、おそらく支給された科研費の2〜3割くらいは、上記のような理由で無駄に使われているのではないでしょうか?
科研費の総額が年度あたり2000億円くらいですから、毎年400〜600億くらいはドブに捨てられている計算になりますねw
そんなわけで、科研費の翌年度への繰り越しが認められれば、数百億円の規模で国家財政の効率化が図れるわけです。
「仕分け」なんて目じゃないですよね!


単年度予算システムを廃止し、翌年度への繰り越しを認めることは、大学関係者なら誰もが必要だと考えていたのですが、今になってようやく実現に動き出した(注:まだ実現してないw)というわけです。
そういう背景があるので、大学関係者の間では「ようやくかよ…」というややネガティブな声もあったりするんですが…
まぁでもとりあえず私は「文科省グッジョブ!」と言いたい。
もちろん、こういう動きが出た背景には、文科省に圧力をかけ続けた様々な団体の努力があったりするんですけどね。


例えば、私の所属している某学会は、
科研費の使い方に関して、○○学会では予算の繰り越しが認められるべきだと考えています。
現在文科省では科研費の運営に関する国民の意見を募っているので(文科省のURL)、
もし我々と同じ見解をお持ちの方は文科省への提言をお願いします」
なんてメールを学会員に送りつけたりしてましたから。(文科省を集団で脅迫しているようにも見えるw)
たぶん科研費の効率的な運用を実現するために、ロビー活動をされてた先生もいるんじゃないかと思います。


そんなわけで今回の文科省の動きに関しては、
・遅くはなったが必要な改正を行おうとしている文科省に拍手。(最近ネット上などで広く意見を募るようになったことに関しても)
・現行のシステムに不満を漏らすだけで終わらず、積極的に行政に働きかけた学会・大学関係者に拍手。
・もしかしたら上記の改正に向けて働きかけてくれたかもしれない一部の政治家に拍手。
…最後のやつに関しては、ホントにそういう人間がいたかどうか怪しいけどw


まぁなんつーか、日本の政治も官僚制度も国民もいろいろ問題を抱えているわけですけど、こういう事例を見ると、「一応日本でも『民主主義』が機能してるんだな」と少しだけ明るい気分になりますね。
そんなわけで、珍しく今日はポジティブなエントリでしたw