暗黒国家日本

今さらながら下記の本を読んでみました。

告発は終わらない―ミートホープ事件の真相

告発は終わらない―ミートホープ事件の真相

ご存知の方が多いと思いますが、食品偽装問題の発端となった事件ですね。
基本的に内部告発者の方の視点で書かれていますが、著しく偏った内容ではないでしょう。
金に汚い成り上がりのワンマン社長の指示で、社員全員が嫌々ながら食肉偽装を行っていたという構図で、「さもありなん」という感じなんですが…
なんかいろいろな意味で面白かった!


まず面白かったのは、社長の天才っぷり。
「オーストリラリア産の豚肉と、豚の心臓と…を、○対○対○の比で混ぜると『国産牛もも肉(らしき物体)』ができる」とかちょっと凡人には考えつかないですよね!
しかも、「より安価かつ高品質(この場合、本物に近いという意味)の肉」を求めて、日夜研究を怠らなかったという…商人の鑑ですね!…ある一点を除けばw
もちろん肉は見た目だけでなく味もそっくりに似せられており、クレームが寄せられるどころか、「○○さんの肉は安いのに美味しいですね!」と評判だったという…うーん、すごい。
たぶんこの社長は「消費者が美味しいと感じる肉」を熟知していただろうから、本物より美味しくすることもできたのではないかな…?
結局社長は逮捕されてしまったわけですし、からくりを知って嫌な思いをした消費者が多数いらっしゃるでしょうから、褒めるわけにもいかないんですけど、でも正直社長の才覚には感服しました。すげー。


あと面白かったというか、印象的だったのは、内部告発者へのバッシングの強さ。
これはものすごく「怖いな」と感じましたね。
「お前も加担してたわけだろ!」とか「給料もらってるのに告発するのってどうよ?」とか、日本だといかにも「ありそう」なバッシングなんですが、でもこういうバッシングが当たり前のように出てくる国は「法治国家」にはなれないですよね。
だってこの方が内部告発しなければ食肉偽装は露呈しなかったわけだし、社長も「どうせバレない」と思っていたから平気でやっていた。
それなのに内部告発自体が途方もないリスクと伴うとなったら、法律を守らせる力はどこにも存在しない。
結果的にほとんど「無法地帯」になってしまうわけです。
実際、今の日本にはこういう「無法地帯」の会社がたくさんあるんでしょうね。
…とりあえず、勇気ある決断をされた赤羽喜六さんに拍手を。
その後、別の内部告発がいくつか続いたこともありますし、赤羽さんの勇気ある行動は日本企業に「企業倫理」を考え直させるだけの効果があったと思います。


私は以前どこかのエントリで、「国が監査しない以上、会社に法律守らせようと思ったら告訴するしかないのでは?」みたいなことを書きました。
告訴することで当人の問題が解決するだけでなく、その後の抑止力にもなる(「また訴えられると嫌だから、ちゃんと法律を守ろう」みたく)だろうと…
でもこんなヒステリックな国ではそれすらままならんのだな、となんかもう諦めの境地に達しましたよ!
それに赤羽さんは年齢的に再就職を考えていなかったようなので、いくらか状況がマシですが、若い人が同じことをやった場合、日本国内で再就職するのってものすごく困難ですよね。
内部告発した」ことを理由に採用しないのは本来問題があるわけですけど、そんな理屈が通用するような国じゃないし。
かくして会社内部の良識人は告発を断念し、今日も会社の平和は保たれる(そしていつも通り悪事が行われる)…と。
ああ、日本って素晴らしい!


そういえば、本の終わりの方で、内部告発者が弁護士の方から、
「弁護士に相談しようとは思われませんでしたか?」
と質問され、「それは思いつかなかった」みたいな返答をする箇所があります。
なるほどね、弁護士に相談すればもう少し穏便に事を進められた可能性があるのか…


以上が私の主な感想なんですけど、おまけ程度に書いておくと、やっぱり「役所ってダメだな〜」と思いましたw
食肉偽装をチクっても、「めんどくさそうだからなかったことにしよう」という見事な事なかれ主義。
もちろんこれは「たまたま事件を担当した役人がダメだった」ということではなくて、「仕事の内容を適切に評価しない組織」の方に問題がある。
もっともこの場合の「評価」とは「こいつは頑張ってるから出世させよう」という類のものではなくて、「こいつはやるべき仕事をやってないから(解決すべき問題を放置してるから)クビだな」という「監査」に近いものですけど。
人間、マジメに働こうがサボっていようが待遇が変わらないとなれば、まず間違いなくサボりますから。
それは共産主義の失敗からも分かることだし、今までの国営企業の失敗からも明らか。
まぁその反動で安直な「成果主義」に走られても困るんだけど、仕事の内容をフィードバックするシステムは不可欠ですよね。
公務員ってそういうこと考えつかないのかな?(皮肉)
会社の売り上げみたいに明確な指標がないと、問題意識が生じないから?
つかまぁ、システムを作るお偉いさん方も「マジメに働こうがサボっていようがあまり待遇が変わらない」方々ですからね。
そりゃ面倒なことしないよね。
あーあ。


なんか日本のシステムに全く希望が見出せないんだけど、欧米だともう少しマシな制度になってるのかな?
似たような問題が起こってそうではあるけど…政治家の裁量が大きければ事態が進展することもあるんだろうか?
時間があったら調べてみようと思います。それでは。


P.S. その後いろいろ調べてみたら、官庁の側で抜本的なシステムの見直しが行われたようです。
そのきっかけはやはりミートホープ事件みたい。赤羽さんの功績は大きいですな。
ちなみに具体的な例としては、
公益通報者保護法の施行
・内部通報者から公益通報を受けた場合のカイドライン→各省庁に徹底
など。