組織内丸投げ構造

建設業界などではよく「仕事の丸投げ」が問題になりますよね。
元請けが仕事を受注して、上前をハネてそのまま下請けに仕事を流す、という。
さらにその下請けが上前をハネて、そのまま孫請けに仕事を流すなんてこともあるようです。
いずれにせよ、最終的に仕事を請け負った会社は、当初の予算(発注者が適当だと判断した予算)よりもはるかに少ない予算で仕事(建物の建設など)を行わなくてはならないので、手抜き工事や耐震偽装などが日常化し、最終的なツケは消費者に回るという…


由々しき問題だと思うのですが、こういった現象は建設業界だけで見られるものではないですし、そもそも「元請けと下請け(親会社と子会社)」という会社間でだけ起こる現象ではありません。
日本ではしばしば「同一組織内」でも「仕事の丸投げ」が行われているのです。


どういうことかと言いますと、例えば本来部長がやるべき仕事(大きなプロジェクトの統括など)なのに、部長がそれを課長に丸投げし、責任を課長に負わせる。さらにはその課長が何ら建設的なアドバイスもせずに、係長に仕事を丸投げし、一介の係長が全責任を負う。
上司から仕事を丸投げされた係長は、家庭を犠牲にし、自分の体を壊してまで仕事の遂行に当たるわけですが、元々十分な知識や経験を持っていないため、満足のいく結果を出すことができず、上司から責められる。また会社もプロジェクトの失敗という痛手を被るわけです。


こういうケースで責められるべきは、必死で仕事をした係長ではなく、自分がやるべき仕事を部下に丸投げし、その上ろくなサポートもしなかった部長や課長です。
しかし、日本の組織では必ずしも元凶たる部長や課長が責められず、係長だけが叱責されて話が終わるケースが多いように感じます。
社長:「○○君、君が担当していたプロジェクトだが、当初期待していたほどの結果は得られなかったみたいだね。」
部長:「いやぁ申し訳ありません社長。実は今回のプロジェクトでは、現場での指揮を○○君(課長)に任せてみたのです(※実際にやったのはさらにその下の係長)。彼は日ごろから誠実な仕事をしていますし、そろそろ大きな仕事を任せた方が彼自身のためにもなると思いましたので…私も可能な限りサポートをしたのですが(※実際にはほとんど何もやってない)、どうやら彼はプレッシャーに負けて本来の実力を出せなかったようですので…私の認識にも甘い部分があったかもしれません。(神妙な顔つきで)」
社長:「そうか、それは残念だったな…まぁ人を使うのはなかなか大変なことだ。君の言うとおり、部下を信頼して仕事を任せなければ彼らも成長しないだろうし…まぁそう気を落とさずに次のプロジェクトに向けて準備をしてくれ。」
部長:「(しめしめ…)はい。次回のプロジェクトには○○部の総力を挙げて取り組み、必ずや社長のご期待に添える結果を出します。(ちっ、今回は○○課長にやらせたが、ダメだったな…口だけのやつめ。今度は△△にやらせるとするか…)」


かくして元凶の部長は責任を問われず、次のプロジェクトでも同じように部下に仕事を丸投げし、それによってさらにもう一人の社員が無茶な仕事によって潰れ、会社も損害を出し続けるという…
そういう不合理が日本の組織では頻繁に起きている気がするのです。
さらに、このような会社では若者は体を壊して出社できなくなるか、退職して他の会社に移ってしまうことでしょう。
ゆえにいつまでたっても、会社内で有望な若手が育つことはありません。
また潰される前に他の会社に移った若者は、心身にダメージを負った若者よりはマシでしょうが、「短期離職者」や「転職常習者」として不利な扱いを受けることになります。
どうにかならないものですかね…?


なんつーか、若い人間が「若者を助けろ!」とか「弱者を救え!」などと主張すると、「自分に都合のいい主張だよね」と思われるかもしれません。
(仮にそうだとしても、「自分に都合のいい主張をする」ことが必ずしも悪いとは思わないのですが…ただまぁそういう主張が社会全体に受け入れられるかというと微妙ですよね。)
でも私がそういう主張をする理由は、「自分に有利だから」というより「その方が合理的だから」です。
要するに、「知識や経験のない若者を酷使するより、知識・経験が豊富で、かつ権力もある人間を頑張らせた方が、組織全体が効率よく動んじゃない?」ということ。
また管理職が本気で若手の育成に当たれば、若手が成長して会社にとってもプラスになるでしょう。
(育てた管理職も自分のしなければならない仕事が減るだろうし。)
ただまぁ、日本の管理職の多くは、「仕事を丸投げする」とか「過度な負荷を与える」ことが「部下の育成」だと勘違いしてたりするんで、かなり望み薄ですけどね。


おそらく日本の内外を問わず、合理的な組織では「管理職をうまく動かす」方法が備わっているのだと思います。
しかしそういう組織は日本では非常に少ない。
そのようなシステム(管理職の仕事内容をチェックする機構とか、部下による評価制度とか)の備わっていない組織では、管理職は権力にものを言わせて仕事を部下に投げ、自分は可能な限り楽をしようとします。
しかも終身雇用という雇用体系では、管理職は無能でもなかなかクビを切られないので、「定年まで大きな問題さえ起こさなければいい」という保守的&消極的な発想に陥りがちです。
日本に不合理な組織が多いのは、特有の雇用体系による部分も大きいのでしょう。


まぁ不合理な日本企業同士で競争してる分にはまだいいんですが、高度に合理化された(アメリカなどの)外国企業と競合した場合、悲惨なことになります。
片や充実した教育を受け、上司のバックアップも十分な向こうの若手と、ろくな教育を受けず、上司からの支援もない、徒手空拳で戦場へ赴く日本の若手サラリーマン。
どちらが勝つかは自明の理ですが、それでも敵前逃亡は許されません。
…ちーん。