世界の英語教育

twitterでイギリス在住のMay_Romaさんという方が、「日本の英語教育はほんとヤヴァイ」みたいなことを呟かれてたので、「ヨーロッパとかだともっとマシなんですか?」と聞いてみました。

http://togetter.com/li/79887


ちなみに私は「学校教育+α(自学)」でとりあえず日常会話程度はできるようになったし、諸外国の人が外国語学ぶ時の勉強量の多さを知っているので、「日本人が英語できないのは教育のせい」という意見を聞くと、
「改善の余地はあるだろうけど、あんなもんじゃない?日本人が英語できないのは(仕事などのニーズに迫られて)必死に勉強しないからでしょ
と思ってたわけなんですが…まぁやはり教育の質にも問題があるみたい。


May_Romaさんが、以下の3つのサイト(PDF文書含む)を教えて下さったので、その内容に沿って欧州や中国の英語教育について把握し、日本の英語教育の問題点について考えてみたいと思います。

http://benesse.jp/berd/berd2010/center_report/global11.htmlフィンランドのケース)

EU諸国内における英語を母国語としない国での小学校英語教育の実際(スペインのケース)

英語教材のオンラインストア - 日本の学校、大学や先生たちに20%割引で各種の英語教材をお届けします(中国のケース)

基本的に小学校教育の話がメインなので、日本の中高の英語教育と直接比較できるかというと微妙ですが、日本でも小学校での英語教育が始まったようですし、参考にはなるかと。



フィンランドの英語教育

とりあえず前提知識としては、北欧は教育に金をかけてるということと、昔からイギリスとの結びつきが強く、英語の重要性が認識されてるということがある。

国により違いはあるものの、早いところでは小学校1年生から、多くの国では3年生から外国語教育を開始し、授業時数は週1〜2時間程度のところが多い。

これはヨーロッパ全体の話。授業時数はそんなに多くないみたいですな。小学1年生からってのはかなり早い気がする。

少人数でのクラス編成で知られるフィンランドの教育だが、英語はさらに少人数に分けて授業が行われる。

やはり少人数でやるのが重要なのか?

中学校段階から英語以外の2言語以上の教育を並行して行うなど、外国語教育全般に非常に力を入れている。
これだけ外国語教育に力を入れている一方で、母語による読解力などの国際学力調査でも世界トップクラスである。

中学から第二外国語ですか…大学でようやく第二外国語を学ぶ日本とはかなり違いますな。
ちなみに後半部分は、「外国語に力を入れたら日本語がおろそかになる」なんて主張が成り立たないことを示してますね。

ヨーロッパの国々での早期外国語教育への取り組みは一様ではなく、近年やっと取り組み始めた国もある。
しかし、多くがEUという共同体で掲げた共通の枠組みを尊重し、歴史的・経済的背景の両面から外国語、とりわけ英語教育に力を入れ始めている。
また、英語のみではなく多様な言語を尊重し、複数言語の習得を目標として教育実践している点は、日本の外国語教育・言語教育とは大きく異なる。

やはり陸続きでEUという共同体もあるので、「他の国から大きく取り残される」ということはあまりないのでしょうね。
第二外国語を学ぶことが英語学習に寄与するのかどうかは興味深いポイントですな。

CEFR…ヨーロッパにおける言語能力を測る共通の基準枠組み。ヨーロッパにおける外国語教育(1)参照

へぇ、そんなのがあるんですね。確かに明確な能力の基準が必要かも。



スペインの英語教育

お次はスペインです。かつての覇権国ですが、最近は国力が停滞していて、ポルトガル、イタリア、ギリシャと共に「PIGS」と呼ばれ、EUでお荷物扱いされてるみたいです。

スペインの教育制度・教育行政は,1978年の新憲法,1990年の「教育システムの全体組織法」,2002年の「教育品質基本法」(LOCE),2006年の「新教育基本法」(LOE)により大きく変わった。
この法律は,各17自治州の文化的で言語的な教育の独自性と多様性を促進するものであり,また教育の地方分権制度をも促進するものであった。
具体的には,情報処理関連教育,早期外国語教育,ヨーロッパ市民教育の3点に重点を置いたものであった。

へぇ、結構がんばってるんですね…

州政府は,英語を使って教科を教えるイマージョン教育を,バイリンガル校(2言語教育校)やトリリンガル校(3言語教育校)で推進している。
予算面や教育資源面で優遇されるということもあり,現在このプログラムを導入する学校が急激に増えてきている。

なるほど、授業自体を英語でやるんですね。
限られた学校にせよ、こういうことができるのは英語に近い言語を持つ欧州の強みかも。

現在バイリンガル校は147校(児童数42,850人)までになっており,会話補助員(ネイティブスピーカー)やコーディネーターと呼ばれる英語学習サポート教員を配置するなど,教育行政からの経済的・資源的サポートを受けている。

マドリード州の英語教育に関する記述。ネイティブの補助員がどのくらいの人数配置されているのかが気になりますが…
英語学習サポート教員ってのがどんな役割を果たすのかも気になりますね。

英語が苦手な子ども達に対しても,反対に得意でもっと力をつけたいという子ども達に対しても,補助の教師(コーディネーター)が,放課後などに個別,または数人ずつ集めて学習させている。
時数については,4年前よりバイリンガル校となり,3歳児から英語教育を行っている。
週25時間のうち9時間の授業を英語で行い,その内訳は,英語5時間,総合3時間,音楽1時間となっている。
指導者は担任と2名のスペシャリストで,1名は音楽を, 《CEIP LEPANTO校にて》もう1名は理科を英語で教えている。

上記は先述の「バイリンガル校」についての記述。3歳からってのはスゴイですね…
なるほど、全ての授業を英語でやるわけではなく、英語以外の数時間も英語っていうことなのか。
しかし、それだけでも英語圏の大学に進学した時の役に立ちますよね。

スペイン英語教育の成果と課題
1 成果
○ 子どもの英語力が伸びてきている。
小学校英語教育に対する各自治体の支援体制が整ってきている。
2 課題
○ 州や地域により取り組みの差が大きい。
中等教育との連携が不十分である。
○ 個に応じた支援体制が不十分である

ふむ。自治体の支援体制ってのは重要かも。でもやはり自治体ごとの差や、生徒個人の差は解消しきれてないみたいですね。

教材に関する話はまぁフツーかな。

次に評価制度について見てみましょう。

児童を評価する手段や方法
マドリード州マドリード
○ イギリスのTrinityが作成する試験を課程ごとに課し,それぞれのレベルに従い認定証明書を与える。(外部評価)
○ 英語で教えた科目における生徒の記録・記録書,英語部,教員会,教育委員会が作成する書類により評価する。(内部評価)
○ 試験は「筆記」と「会話」で,「筆記」はカスティリア語で尋ね英語で答える問題と,英語で尋ね英語で答える問題がある。
「会話」は先生が生徒に質問する方法と,生徒同士が質問し合う方法がある。
2 カタロニア州・バルセロナ
○ 1・2年生は会話を中心にした授業で,英語の試験はない。
○ 3年生からカタロニア州の共通試験がある。4年生〜6年生には「会話」と「筆記」の試験があり,これにより個人ではなく学校全体が評価される。(外部評価)
○ 学校によっては,「会話」と「筆記」の両試験を課し,3ヶ月毎に保護者に連絡している。
1年に1回は保護者を学校に呼び,評価を含めた話題で保護者とコミュニケーションを図っている。

なるほど。外部評価があることと、会話能力についても評価していることは重要ですね。

ALT等のネイティブ・スピーカーの活用
1 文部省の説明
○ イマージョン教育の担当者は,他の教科も英語で教えることができるスペイン人の教員なので,ALTは英語活動補助員として交換留学生が中心であり,英語のネイティブスピーカーの教師の配置は,国全体で約1%程度である。
マドリード州教育省の説明
○ イマージョン校にはネイティブの会話補助員が配置されており,児童の教育に関わるだけでなく担任のサポートを行ったり,教員への英会話研修も行ったりしている。
3 カタロニア州教育省の説明
○ 基本的にALTは置いていない。教員は大学で英語を習得しているので,スペイン人の教員が英語を教えている。発音の面などで学校現場から要請があれば,州で判断しネイティブスピーカーを配置することもある。

その他,教員養成,教員の資質向上のための支援
マドリード州内にあるBritish Councilにおいて8週間にわたる初期訓練講義を実施
2 英国における4週間の英語訓練
3 英国において4週間の英語教育についての手法やバイリンガリズムについての講義
4 他分野スペシャリストの英語講義への組み入れ
5 コーディネーターの姉妹校への訪問
6 教員が姉妹校において各種活動を体験したり,実際に2週間滞在し授業を行ったりするための費用
7 週1回の英会話についての講義及び英語教材の作成
8 採用3年目をむかえた教師に対する2週間に及ぶ再訓練

なるほど…「他の教科も英語で教えることができる教員」ってのは日本にはなかなかいませんよね。
それこそポスドクとか雇ってくれたら、できそうな人も結構いると思うけど。
ネイティブの補助員の数はそんなに多くないみたいですね。
ただ、「担任のサポートや教員への会話研修も行う」ってのは上手い活用法。
教員の養成システムも整っているみたいですね…



中国の英語教育

最後は中国。今勢いのある国です。母語は基本的に英語とは異質。

中国での英語教育が日本と明らかに違う点は、以下の3つに集約できる。
1. 学習者の英語を習得しようとするモチベーションが非常に高い。
2. 英語教育が質的に優れている。課程基準(中国の学習指導要領)の目標が明確であり、授業内容もそれを実現するものとなっている。
3. 英語の学習量が多い。英語の授業時間数は課程基準に基づき多くなっている。

分かりやすいですねw
それぞれの詳細について順に見ていこうと思います。

生徒のモチベーションが高い理由について、それぞれの学校で先生たちに尋ねてみた。まず、世界で活躍するには英語が必要であることを生徒たちが実感していること、子どもの将来を考え、親たちが英語教育に熱心であることなどが、その背景にある。さらに中学や高校では、進学するためには、英語の成績が良いことが絶対条件であることが生徒たちのモチベーションを高めている理由であるそうである。

ふむ、なるほど。

それでは、大学生の場合はどうであろう。中国では、CET (College English Test)という英語専攻ではない大学生の英語能力を測る統一試験が行われている。
(中略)
試験する技能はリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの4技能すべてである。
試験には、Band 4(4級)用とBand 6(6級)用があり、4級は大学生が卒業時に到達する英語のレベルと想定し、6級は4級よりさらに上のレベルである。
ほとんどの大学ではBand 4の取得を卒業条件にしている。また、大学の中には、4級を取得しないと卒業は許すが学位は出さない大学もある。

おお、出口審査!しかもライティングとスピーキング込みってのは大きいですね。
そういえばとあるSNSで知り合った中国の方(フィリピンの大学で中国語を教えている)は、
「中国では大学出る前の試験が厳しいから、それに通ってしまえばTOEFLはそんなに苦労しない」みたいなことをおっしゃってました。


んで次は授業の内容(指導要領)の話。

現行の英語課程基準2001年度版(既に改訂版を準備中)は、従来重視し過ぎてきた文法と語彙知識の解説及び伝授から生徒の言語運用能力を高めることを重視しようとする改革の試みであった。
(中略)
英語課程基準の目標は、生徒の総合的な言語運用能力を育成することにある。
その言語運用能力とは、1)言語技能、2)言語知識、3)意欲・態度、4)学習ストラテジー、5)異文化理解能力の5つの要素から構成されている。
この5つが統合的に機能することにより、総合的な言語運用能力の育成が促進されると課程基準は明記している。
日本の学習指導要領では、意欲・態度、それに関係する学習ストラテジー、さらに、異文化理解能力に関する具体的な目標設定はされていない。

なるほど。まず「文法と語彙知識の解説及び伝授→生徒の言語運用能力の向上」ってのは時代にマッチしたものだと思う。
ふーむ、日本は意欲や学習戦略、異文化理解に関して目標設定がなされていないのか…まぁそれがどういう問題を生じるのかは明確ではないですけども。

総合目標は1級から9級まで設定されており、さらに、上述の5つの要素別にそれぞれの級の到達目標が設定されている。
総合目標レベルの1級は小学校3・4年の到達目標であり、2級は小学校5・6年の到達目標である。その後、中学卒業時で5級を、高校卒業時では8級を目指している。
しかし、現実には、普通高校では、6・7級を到達レベルとし、進学校では、8・9級を到達レベルとしている。

ちなみに中学卒業時の到達レベルである5級レベルの目標を1つずつ紹介する。
リスニング―自然な速度の物語や記述文を聞き取ることができ、物語の因果関係を理解できる。
スピーキング―平易な話題において情報を提供でき、自分の意見を簡潔に述べ、ディスカッションに参加できる。
リーディング―目的に応じて、基本的なリーディング・ストラテジーを使用し、情報を得ることができる。
ライティング―独力で短い文や手紙を書くことができ、教師の指導で修正ができる。

なるほど。具体的な目標が定まっているのは重要ですな…
それにしても中学卒業の段階で「ディスカッションできて手紙を書くことができる」ってのはすごいね。


最後に学習時間の話。

小学校3・4年生では、20分授業が週4回、5・6年生では、20分授業が週2回、40分授業が週2回ある。中学、高校の6年間では、45分授業が週4回ある。
(中略)
例えば、北京師範大学第2附属高校はモデル校であるが、高校1・2年では、45分の英語の授業が週5回、高校3年では週6回ある。

まぁ日本より多いんですかね?小学校で週4ってのはかなりの力の入れよう。

例えば、北京東四九条小学校では、小学1年生から英語を学び、小学校卒業時点で1600語の習得(理解できる単語ではなく、話したり、書いたりすることもできる単語)を目指している。
1600語といえば、中国の中学校の卒業時に身につけていなければいけない単語数に匹敵する。

ちなみに日本の場合は、中学英語の単語数 -中学3年間で、習う単語数ってappleとか全部あわせ- 英語 | 教えて!gooによると、

中学-900語 + 高校-1,300語 合計2,200語が、現在の学習指導要領の語彙数で、それを、新学習指導要領では、3,000語まで引き上げることになっています。

とのこと。日本の中学生の語彙数は中国よりずっと少なくて、しかも中国のトップの小学校では同じ量を小学校で教えているという…
「習得」ってとこも重要かもしれませんね。日本の場合、読むことはできても、聴いたり書いたり話したりすることはあまり求められないので、その域には達していない気がします。



まとめ

うーん、とりあえず上記の資料から日本の英語教育の問題点(改善策)を考察すると、以下のような感じでしょうか。

  • もっと少人数でやるべき。
  • もっと授業数を増やすべき。
  • アウトプット(話す、書く)を増やすべき。
  • ディスカッション、ロールプレイなどを取り入れるべき。
  • 可能であれば、他の教科も英語で教えてみるべき。
  • 学年ごとに具体的な目標を設定すべき。
  • 生徒の能力および学校の取り組みの外部評価をすべき。
  • 大学で出口審査をすべき。
  • 意欲、学習戦略、異文化理解なども養うべき。
  • 教員育成の仕組みを整えるべき。

まぁ実現するには予算が必要なものもありますが…


ちなみに、ちきりん氏のブログ http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/ や、May_Romaさんのつぶやきを読めば理解できると思うのですが、今後は日本国内で十分な雇用が見込めず、何割かの日本人が海外で働くことになると思います。
ゆえに英語教育の充実は急務かと。

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