クビになりにくいことは本当によいことか?

『日本のニート・世界のフリーター』を読みました。欧米の若年雇用政策がうまくまとめられていて面白かったです。

日本のニート・世界のフリーター―欧米の経験に学ぶ (中公新書ラクレ)

日本のニート・世界のフリーター―欧米の経験に学ぶ (中公新書ラクレ)

日本では90年代後半になってようやく、「若者の就職難がやばい」という話が出てきたわけですけど、欧米では70年代からすでにそういう問題が顕在化しており、対応策も取られているので、「日本もそれに学んだら?」というスタンス。
欧米、特に西ヨーロッパではすでにありとあらゆる対策が取られており、日本政府の対応の遅さに愕然とした部分が無きにしも非ず。


英・独・仏あたりでは、政府が積極的に学校から職場への移行を促進する政策を行っているみたいです。
インターンを国の肝入りで大規模に行う感じ。
あと日本では失業者対策は「ジョブカフェ」みたいな受け身の対策が主ですけど、イギリスでは職に就いてない若年層一人ひとりにアドバイザー付けて就職支援を行ったりしています。
そういったヨーロッパの政策はそれなりに効果が出ているみたいですけど、今までほとんど何の対策も取っていなかった日本が急にそこまで徹底した政策を実施できるかというと疑問がありますよね。


結局のところ、日本で若年層の失業や非正規雇用(派遣)によるワーキングプアを解決しようと思ったら、現実的には以下の二つしか道はないみたいです。

  1. 正社員の雇用保護規制を緩和する
  2. (異なる形態の被雇用者の)均等条件を確保する

OECDが「日本は早く手を打たないとヤバいんじゃないの?」ってことで勧めてきたのも上記の2つの施策。


1はどういうことかと言うと、日本は終身雇用が崩れたと言ってもいまだに正社員の雇用保護が手厚く、なかなかクビにできないので、会社は正社員を取りたがらない傾向がある(一度雇ってしまうとその社員が使えなかったり、会社の状態が悪くなったりしてもクビにできず、リスクが大きいから)。
じゃあ、もうちょっとクビを切りやすくすれば、雇われる正社員が増えるんじゃないの?という施策です。


2は、非正規雇用者(派遣社員やアルバイト)がいることを前提として、「労働時間が少ない分、給料が少ないのは仕方ないけど、それ以外の条件は(正社員と)平等にしましょうよ」という話。この場合、時給の他に社会保障や社内教育も平等にするようです。
オランダではすでにそういった体制が確立されているし、他のヨーロッパ諸国も日本と比べると非正規雇用者の待遇が比較的マシみたい。


で、この本の筆者は「まず日本で行うべきは2だろう」と言ってるんですが…
私は絶対1が必要だと思います。
なんとなくみなさん「クビになりにくいことはいいことだ」と考えているんでしょうが…本当にそうでしょうか?
私の感覚では、雇用保護規制の強い組織の方が、理不尽な目に遭うリスクは大きい気がしますよ〜


雇用保護規制の強い社会で起こる問題として、上記で述べたような「会社が正社員を雇いたがらないので失業者・非正規雇用者が増える」という問題があるわけですけど、他にも以下のような問題が起こりうる(すでに起こっている)と思います。

  • 正社員の労働意欲が減退し、組織の生産性が下がる
  • 規制をくぐりぬけて解雇するために、社内いじめなどの嫌がらせによって自主退職させる


まぁ後者の「社内いじめ」も問題だと思うんですけど、とりあえずここでは「労働意欲の減退」について考えたいと思います。
え?「雇用保護規制が強い方がクビになるリスクが低いから会社への忠誠心が強くなる」?
うーん、そうでしょうか?まぁ中にはそういう人もいそうですが…
でもそういう組織の内部にいる人は分かると思うんですけど、「なんでこんな奴がクビにならないの?」って人が結構いますよね。
「どうせ簡単にクビにはならないから、最低限の仕事だけしてあとはサボっちゃえ〜」と考えてるとしか思えないような連中が。
まぁ「自分が働かないだけ」ならまだマシなんですが、そういう人間が上司になった場合、部下は悲惨な目に遭います。
…分かりますよね?


あとまぁ、雇われる前は「クビにならないなんて夢のようだ!」と思うかもしれませんが、実際に雇われてしばらく経つと、元々働く意欲の強い人でも、「結局この仕事が成功しようが失敗しようが、待遇が大きく変わるわけじゃないから、まぁここら辺で妥協してしまうか〜」みたく、ついつい仕事に手を抜いてしまう可能性があります。
え?別にクビにならないんだからいいじゃん?って?楽して稼げるのが一番?うーん…
まぁ「日々クビになる恐怖に怯えながら、体力の限界まで働く」ってのは嫌でしょうけど…
でも「クビになる可能性がないわけじゃないけど、日々自分なりに努力していれば、そう簡単にクビにはならない」って状況だったら?
雇用保護規制が弱いことが、仕事のモチベーションの維持に役立つ場合もあるわけです。


つーか、人間はそこまで怠惰な生き物ではないので、安定した職を得た後でも、「日々ちょっとずつ努力しよう」というくらいの向上心は誰しもが持っているわけでしょう?(例外もいるかもしれんが)
だったら「入社する時にものすごい労力が必要だが、入社してしまえばほとんどいらない」って社会より「入社時も入社後も、そこそこの努力が必要」って社会の方が生きやすくないですか?
少数派なのかな…?


ちなみに雇用保護規制が強かろうが弱かろうが、会社が倒産した時には基本的に職を失ってしまうわけです。
大企業に勤めていてもそのリスクがあるのはご存知でしょう。
もしそうなった場合に、「どうせクビにならないから仕事も適当でいいし、転職のための資格取得も必要ないや〜」って人と、「クビにならないように日々努力が必要だし、万が一クビになった時に備えて、転職に役立つ資格を取得しておこう」って人が再就職を目指したら、どちらが職を得るかは明白ですよね。
そんなわけで、「クビにならないことはいいこと」っていう考え方にちょっと違和感を思えるのでした。
ちゃんちゃん。


P.S.ちなみに日本の大学では、ある程度業績が出てしまえば(ここの審査も甘かったりするのだが)「終身在職権」が得られるので、「クビにならないからサボっちゃえ〜」と思ってる大学教授がたくさんいます。どうにかしてくれよ…